母、岩田(山名)定子の俳句作品抄録・随想

満66歳で亡くなった小柄な母は薬局を経営し、句作を好んだ。私とはほとんど同じ屋根の下で暮らすこともなかったが、努力家で時に頭脳の冴えを見せる人だった。もっと、いろいろ話したかったが、それも果たせず、自分の親不孝を悔やむばかりです。少し鑑賞くださればありがたいです。

→ 母、岩田(山名)定子の・随想(『随想』 昭和46年度作品集、大阪市立婦人会館)

柚風呂にしたり柚の香激しき膳につく
大吉のみくじ財布に入れて梅堅し

『年の花』第7巻第56号 昭和55年5月10日

麻痺のわれ麦茶を沸かす日課かな

『年の花』第6巻第48号 昭和54年11月10日

道ばたに在す地蔵ややぶ椿
白鳥の首しなやかや風光る
内股であゆむ家鴨や水温む
雲の影走りて東風の雀かな

『年の花』第8巻第67号 昭和56年6月10日

克明につきし布目や酒の粕

『かつらぎ』 昭和52年5月1日

紅扇入水の姫を見し如し

『かつらぎ』 昭和52年10月1日

白雨去る軒なる鳩の羽づくろひ
赤い羽根予定して着し紺の服
コスモスや野にあるごとく活けてあり
病づめ切ればとびゆく秋日和

『かつらぎ』 昭和53年1月10日

をさな子のつきゆくのみの盆踊

「毎日俳壇」『毎日新聞』 昭和52年9月25日

すこやかに主婦老いにけり菊膾

『年の花』第4巻第36号 昭和52年1月10日

萎えし指かばひて めし手套かな

『年の花』第4巻第39号 昭和52年4月10日

ねころがりて拳すふ子に走馬燈

『年の花』第4巻第46号 昭和52年11月10日

赤とんぼ法事待つ間の大広間
片言の子は子で遊び地蔵盆
朝顔をとりどり咲かす寮の窓
昼の箍のはずれし桶崩れ

『年の花』第4巻第47号 昭和52年12月10日

黒々と那智の玉石梅雨の蝶
老いひとり店守りたり梅雨の夜
調剤を終えしやすらぎ棕梠の道

『年の花』第3巻第31号 昭和51年8月10日

秋暑し泣く子に母はふりむかず
もの凄きほめき残して西日入る

『年の花』第4巻第47号 昭和52年12月10日

初なりの瓜はいびつや鴟尾に似し

『年の花』第4巻第45号 昭和52年10月10日

もぎたての茄子のとげの鋭けれ

『年の花』第4巻第46号 昭和52年11月10日

せせらぎにきり立つ崖や鮎の宿

『年の花』第4巻第44号 昭和52年9月10日

夏野菜鉢植にして老夫婦
朝の試歩鋭きとげの茄子もらう

『年の花』第5巻第58号 昭和53年11月10日

老犬に一つ頒ちて寒卵
ひび割れし水餅さぐる胼の手で

『年の花』第4巻第40号 昭和52年5月10日

禰宜一人なる奥宮や初詣
参道の杉の木立や初詣
背に泥をつけたるままや畦を塗る
ひとり居の気儘の昼餉蓬餅
そよ風にゆれつづくなり芥子の花
走馬灯廻るや闇を又照らす
蝸牛あとてらてらと光りけり
夏草や水子地蔵の立ちたまふ
庭石に梅干す笊の二つ三つ

『いぶき』 昭和52年3月5日

泣きぼくろ
しずまりてさゆらぎもなく水中花
朝茄子をもぎたる巫女の戻りけり
きりきしに流人の墓や夕日さす
姉が居の犬じゃれつくや花紫苑
冷まじや手鏡に見ゆ泣きぼくろ
すこやかに主婦老いにけり菊膾
臘入会眉濃き僧の目立ちたる

『いぶき』 昭和52年3月15日

銭太鼓
魁けて江戸紫や花菖蒲
法被の子銭太鼓打ちあわただし
浮御堂訪ねて秋を惜しみけり
芦叢のここかしこに鴨の鳴く
一盛りの椎の実供へし道祖神
ひとり生えなる鶏頭の燃えにけり
柿むきの速さを競ふ女どち
草の香のごと青くさき秋蚊打

『いぶき』 昭和54年3月15日

浮御堂訪ねてみれば秋深し
茶碗売る参寧坂や時雨時
一盛りの椎の実供へし道祖神
あいうえお書く子入学を待ちにけり
仏壇を寝ぐらとしたり油虫
姉の背に母の影見たり菊作り
故山名常太郎の和歌
みどり児の初水を家出して、旅路に誘う影の哀れさ
那智黒の小石づたいに梅雨の蝶

(受賞のことば)  慶びを
この度「年の花」俳句大会において私の拙い句を委員賞に入賞させて頂きまして御礼の申し上げようもございません。句歴の浅い私の句の入賞は全く僥倖としか思えません。選者の諸先生方に対して厚く感謝致します。私の所属して居ります摂津市福祉施設の「いぶき句会」は月一回の句会と年二回のほのぼのと楽しい吟行会が催され、おおらかで屈託のない句友十数名が講師岸本白霧先生の御指導で、句は詩ではない、幻や虚像をもてあそぶな、正直に素直に心をものに託して語らせるのだ。大切なのは写生なのだ等々俳句作法についてのきびしい御鞭撻の下に句作に励んでおります。その岸本先生が「年の花」への入会と応募を勧めて下さいました。今後も引き続き「年の花」をお手本と致しまして専心俳句の勉強を続けて行くつもりでございます。何卒この上ともよろしくお願い申し上げます。

『年の花』第4巻第45号 昭和52年10月10日

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